勉強を楽しくする方法98〜刺激を伴うインプットを〜

知識や情報は人に伝え、共有することで自分にとっても、他者にとっても価値を最大化できる。
そういう意味で、勉強の出口としてアウトプットは常に念頭におかなくてはならない。
しかし、だからといってインプットがなおざりになっていいわけではない。
インプットの目的が知識や情報、深い理解にあることは、論を俟たない。
情報量と文章の質は相関関係にある。
ただ、私はインプットにはそれ以外に同じくらい重要な「価値」があると思っている。
それはインプットが「刺激」をもたらすということだ。
「勢い」といってもいいかもしれない。


インプットがもたらす「刺激」や「勢い」は驚きや発見、理解と共鳴から起こる。
そこには感情が働くのだ。
感動や希望、期待やスリルといったものが入ってくる。
そういう類のインプットはぐいぐい読ませる。
半ば中毒性や宗教性のような色合いも帯びてきて貪欲に読み、調べ、その世界観に浸ってくる。
その世界の住人になってしまう。
だから、単なる情報の習得や知識の暗記を超えていく。


アウトプットを意識しすぎて、アウトプットばかりに重心を移すとインプットが甘くなる。
インプットによってその分野の魅力を知ることができれば、きっとアウトプットも魅力的になっていく。
空っぽのインプットであれば、アウトプットは情報や知識の羅列になっていくだろう。
最終的にはインプットによって核心はどこにあり、何が本質なのかを見抜いていくということである。
もちろん、膨大な知識や情報を習得していくのだけれど、それは辞書や教科書のような情報集の類ではなく、達人の著作による処理・活用の手法から多くを学び、興味が喚起される。
きっとその達人は「この世界とは何か?」を一言で説明できる人たちだ。


皆さんが面白いと思う本を一冊思い浮かべて欲しい。
その本は、おそらく教科書ではないだろう。
教科書は知識と情報が隙間なく、無駄なく並んでいる。
著者の個性の反映は最低限だ。
教科書はそれで役割を果たしている。

しかし、人は無味乾燥の情報を面白いと思わず、人の独自の癖や見方を愛するものではないだろうか。
一般書や参考書となると、予備校講師やプロとして仕事をしている人が独自の説明を展開している。
おそらく書いている本人がその分野の力を信じ切っていて、必ずや世の中や人生を変える力があると確信しているのだろう。
その人なりに、どこが魅力なのかを必ずあなたに伝えてくれる。
著者が次回作を出すとしたら、きっとあなたは購入を考える。
それはその著者が必ずやあなたの期待を裏切らない、エンタメ性を秘めつつもロジックと豊富な情報量であなたの知的好奇心を刺激してくれるからだ。


私たちはどこまで行っても生身の人間だ。
コンピューターとA Iがどれだけ台頭してきてもこの事実は変えられない。
私たちが機械になってしまったら、私たちの「感覚」は消えていく。
その時は、知識や情報を入力するだけで、仕事完了だ。
その代わり、刺激も満足も感じることはできないだろう。


つまりは、書いている側の「熱」の中に面白さや本質、世界性や先見性が入っている。
それが知識や情報以上に、私たちの中にこだまする。
それによって読んでいる私たちは痺れてしまうのだ。


十人十色のたとえ話があり、世界観がある。
「歴史」でいえば、歴史観が人それぞれある。
「歴史」は感染症のように過去の教訓を学べるという人もいれば、人間の本質に迫ることができるという人もいる。
そもそも人類という人種から迫るアプローチの人もいる。
「歴史」という概念装置の使い方は人それぞれであり、その人たちが魔法のように装置を操って、私たちに歴史の「新しい顔」を見せてくれる。


自分の中に一つの分野、一つの概念から魅力ある師をどれだけ持ち、変幻自在にレパートリーを繰り出せるようになっているかで、あなたのインプットの熟成度合いが分かってくるのだ。
その時には、きっと魅力同士が化学反応を起こし、新しい世界観があなたの中に構築されているかもしれない。


坂の上の雲』(司馬遼太郎)、『昭和史』(半藤一利)、『全世界史』(出口治明)・・・


どれもこれも読んでしまえば、できることはその人に「全部やられた」と感じる。
しかし、それはその人の見方だから生産できるものであり、あなたにはあなたの見方で生産できるものが必ずある。
あなた自身がインプットによって刺激され、そこからもたらされる「気付き」を大切にとっておこう。
それを実践して知恵に変え、共有していこう。
私たちは先達のエッセンスからきっとインスピレーションを得ている。
それを、アウトプットの起点にしていくといい。


改めてインプットの質を考えてみると、その大切さに気づかされることがある。
インプットに完成は無いのかもしれない。
しかし、刺激あるインプットがスパイスとなって、あなたの筆を走らせる。
そんなインプットを求めていきたい。